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【特集】F's People エフズピープル

スタートは、鍋や包丁が飛ぶ板前の世界

子供の頃、お出かけのときだけ許してもらえる外食が、とても嬉しかった。「外食が当たり前」な現代にはない、ひと昔前のノスタルジーかもしれない。

垣實さんも初めて母親の味ではない料理を口をしたときに、世の中にはこんなに色々な食べ物があるんだ!と知って、食への追求に取り憑かれていったという。

「板前になりたい。それしか頭になくて、他の仕事に就くイメージは全くありませんでしたね。高校3年〜大学に進学してからも、寿司屋でアルバイトをしたり、系列の和食店で働いたり…。憧れて入った板前の現場でしたが、これが思っていた以上の過酷さで。

朝4時に出勤して、仕込み、昼の営業、仕込み、夜の営業…で、22時までメシ抜きが毎日。最初は当然包丁なんか持たせてもらえないし、失敗するとすぐ、兄貴分から本当に鍋とか飛んでくる(笑)。一日で辞めてしまう新人も多い、体力的にも精神的にも厳しい世界」。

しかし垣實さんの場合、この縦社会の厳しさ、師弟関係を経験したことが、結果として料理人としてのあり方や、技術の磨き方を知るベースとなった。

「上下関係が厳しいから、自分がやられたことを後輩にもしてしまう風習があって、それが好きになれなかった。何でも先輩が先で、後輩はその後。腕や能力のあるものが上へ行ける世界ではあるんですけど、先輩を抜かしてしまったときは、裏でイジメられたり…。

和食は“見取り稽古”と言って“習うより盗め”なんです。教えてもらえないから、やり方を見てどうすればいいか考える。でも、この力が付いたおかげで、どこへ行っても厨房を覗けばわかるようにもなった。厳しかったけど、その分、得たことも大きかったですね」。

大学時代には、サマーキャンプで3カ月ほど初海外のアメリカへ。そして卒業間近に単身タイへ渡航し、2カ月半ほど放浪。常に頭には「食」のことがあった。

「アメリカでは、空き時間を見て、本場のハンバーガーを食べ歩きました。その頃、大学の仲間がアジアやインドに行っていて、アジア料理への興味も膨らんでいたんです。聞いたことのない食材、香辛料の話を聞いて思いが募り、タイへは何も決めずに飛びました。

現地では、屋台文化やタイ料理にハマって、店のおばちゃんから見取り稽古(笑)。日本語vsタイ語なんだけど、メモとか写真とか撮っているうちに、“覚える気ならちゃんと見せてあげる”と厨房に案内してくれて、手順やレシピを習い、食べて味を記憶する日々。

苦い思い出もありましたよ。滞在3日目に宝石商に声を掛けられて、店もちゃんとしているし、他にもお客さんもいたので、母と姉にお土産を買ったんです。
旅行者だから…と直接日本に送ってくれるという話になったんですけど、イミテーションに変えられちゃって。

その夜、泊まった日本人宿のノートに15P以上に渡って、同じ手口が赤マジックで書かれてまして(苦笑)。青ざめました。本当は半年以上いる予定だったんですけど、そのおかげで短くなってしまって。ビール飲んで、象に乗って、プーケットに行って…。もうヤケ(笑)」。

出張料理というスタイルを選んだワケ

帰国後は、無事大学を卒業。同時に東京の大手新聞社に就職が決まり、料理人とは全く違う、営業畑のフレッシャーズとして社会にデビューすることに。

「料理を続けたい反面、違う業界で新しいことが吸収できるかも?という期待もありました。実際、色々な出会いもあって良かったんですが、どうしても仕事に心が入らなかった。これからは本気で料理人をやっていこうと決着が付いた感じで、辞めるときは悩みませんでしたね」。

それからは、持ち前の吸収力とフットワークで、スープカレー、イタリアン、和食懐石と、幅広く経験を積み、昨年7月に「Aroi(アロイ)」 を立ち上げた。

「プロになって、様々なお店を経験するごとに、今までにはなかった思いや課題が自分の中に生まれるようになりました。“日本人に合う味とは何なのか”“味だけでなくいかにサービスできるか”“これまでの枠にとらわれず、自分らしいスタイルをどう作っていくか”。

自問自答を繰り返して、一番やりたい事を考えたときに“よりお客様に近いおもてなしを志す”ということだったんです。誰が作ったのかもわからない、出てきたものを食べるだけ…ではなく、一つの料理に対して作り手の側がもっと情報を発信できるんじゃないかと。

そうすれば、食べる人の食の意識ももっと変わっていくだろうし。生産者がいて、作り手の思いがあって…そういうことを一番伝えていきやすい形が、出張料理だったんです。厨房にいてはできないこと、伝えられないことをやっていきたい。それが“aroi”の原点」。

毎回違う会場、シチュエーションで行うケータリングは、ハプニングの宝庫。包丁を忘れた!などは可愛い方で、現場で真っ青になることもよくあるのだそう。

「会場を見て、打ち合わせを終えて、段取りも考えて。いざ宴会の当日に行ったときに予定していた会場ではなく、なぜか改造バスが宴会場だったとか(笑)。急遽、知り合いに七輪を持ってきてもらって、別の料理に使おうと思っていた生サンマを炭火焼きにしたことも。

どんなハプニングが起こっても、とにかくやるしかない。何が起こるか、何があるかわからないというライブ感があって、逆にテンぱっちゃったときこそやる気が出ますね。逆境が大きければ大きいほど、乗り越える充実感も大きいし、いつも同じじゃないからこそ楽しい!」。

“逆境を楽しみ、それをチャンスだと思うこと”。そんな風に、すべての物事を前向きにとらえることができる、垣實さん流のポジティブシンキング術とは…?

「自分を好きになることでしょうか。そりゃ足りないものはいっぱいあるけど、できた事や自分が完成させたものを、きちんとできた!と認めて、素直に受け入れる。あるがままに焦らず、ペースを崩さない。…いや、崩れることもあるんですけどね、フラれたときとか(笑)」。

自分の料理を通して、食卓を変えていきたい

▲自宅の家のキッチンが厨房に早変わり!料理教室も家まで出張してくれる

「Aroi(アロイ)」は垣實さんが、現地で初めて覚えたタイ語。“美味しい”という意味を持つこの言葉を通して、今、様々な手法で美味しさを伝えている。

出張料理教室、ケータリングのサービス、商品開発・研究、フードスタイリスト、飲食店の調理コンサルタントなど、一つの肩書きではおさまらないほど。

「ケータリングはイベントからご自宅まで、月に10〜15回ほど。ほとんどがクチコミです。食べる方の年齢、環境、どんな会か打ち合わせをして、メニューを考えます。先日お年寄りのいるお宅で“何年かぶりにありがたい気持ちをもらったよ”と、満面の笑みでお礼をいただいて…。こうした食の幸せを伝えるのが私の仕事だ、と改めて感じる瞬間ですね」。

高校生のときから「食」の世界に触れてきて、料理人としての生きる道が見えてきた頃から、伝えていくべきことが自然と明確になってきたという。

「まず今は、一番重要な「食べる」ということへの執着が、欠けているように思うんです。安い、手軽だけじゃなく、安心で体に良いものを取るのもその一つ。特に北海道には恵まれた野菜、肉、魚、米などがある。その素材を最大限に生かしたい、という気持ちは常にあります。

そしてもう一つは、自分がホテルや外食業界で培った技、腕を、もう少し内食=一般の食卓へ伝えたいという思い。出張料理だけでなく、教室を開いているのは“aroiから食卓へ、食卓からあの人へ”、家族にとって大切な時間を、より活性化できればと考えているからです」。

垣實さんが見ているのは、自分の作った料理を食べる人の顔だけではない。自分の料理を学んだ人の先にある、食卓の風景。そこから生まれる、温かい家族の絆だ。

「最近“孤食”が増えています。食卓を囲む機会が減って、子供が一人でご飯を食べざるを得ない現状。一人では食べられる食品に限界がありますから、その影響で食欲不振や、栄養の偏りなんかが生まれる。僕は今の食卓を、もっと変えていきたいと思っています。

親が与える環境は、子供にそのまま伝わってしまう。食に何の意識を持たないまま、大人になってしまう。母親が料理を作っている姿を見せるだけでも、育ち方は変わってくるはずなんです。特別なことじゃない、ちょっとした工夫で変わるんだよ、ということを、自分の料理や料理教室などで伝えていきたい。それがこれからの、僕の一番の使命ですね」。

編集後記

幼い頃、外食という響きには何か特別な魅力があった。でもそれは、母の料理と家族との団らんという日常があってこその「非日常の楽しみ」なんだ、と気付 いた。食べる幸せは、生きる幸せだと言っても過言ではない。子供たちの未来に生きる幸せをくれるのは、案外、毎日の手作りの味なのかもしれない。それにしても垣實さん、かなりのイケメンです。お子さんのいるママはもちろんのこと、独身女性の皆さん、ホームパーティでぜひ!

文/青田 美穂

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profile

垣實敬介(かきざね けいすけ)
1977年6月28日生まれの28才。札幌大学経営学部を卒業後、大手新聞社勤務を経て、本格的にプロの料理人へ。スープカレー「Magic Spice」、イタリアン「Santana Cafe」、京王プラザホテル「和食懐石海山」などで修業し、2004年7月に出張料理&教室・ケータリングサービスの「aroi」を立ち上げる。ホームパーティ、イベント、会議などのケータリングほか、お客様の自宅での出張料理教室も行い、ジャンルにとらわれないオリジナル料理を広く展開。

出張料理 Aroi -アロイ-
〒004-8790
札幌市厚別区もみじ台南5−1−4
tel.0120・72・4456 mob.090・3892・0628
E-mail:aroi_to_aahaan@lovering.jp

最近のお気に入り

料理道具
一番古い葉包丁は刃が半分に減っているほどの長年の愛用品。鋼製で錆びやすいので、手入れも自分で しています。道具はほとんど一目惚れ、刺身包丁、葉包丁、出刃包丁、ペティナイフの4つをメイ ンに使っています。ネーム入りのエプロンは友人からのプレゼントでお気に入りのアイテムです。
CD「CAFE DEL MAR」
カフェデルマーはスペインのイビザ島サンアントニオにある世界で一番有名なサンセットカフェ。
そのコンセプトイメージのアルバムは、ほとんどがインストで、癒し系からアップテンポのものまで、くつろぎながら聴けます。プライベートだけじゃなく、ケータリングの現場でも会場に合わせて好きな音楽をかけることが多いんですよ。
愛車・ホビオ
2年ほど前にこれまた一目惚れして、新車で購入した愛車。その前はでっかい車に乗っていたのですが、小回りが良くちっちゃいわりに荷物がたくさん入るところがお気に入り。夏はキャンプや釣り、冬やスノボなどアウトドアが好きなので、仕事だけでなくプライベートの相棒としても最高!

出張料理教室

出張料理教室はサービス料・食材費込みで1回1名4200円〜(3名の場合)、ケータリン
グサービスはホームパーティ5名〜15名でランチ2万5000円、ディナー3万3000円(材料費別途)※予算は料理内容と合わせて相談

特別メニュー企画

【北海道の旬の食材で体にうれしいランチ】
日時:8月31日(水)

月替わりで開催している、旬の道産食材とAroiのセッションイベント。8月は「北海道夏野菜のイ
タリアンサマーランチ」を下記で提供。

場所:パーティハウス(札幌市西区八軒2条東4丁目)
時間:11:00〜14:30(限定30食、完売時点で終了)
問い合わせ:011・631・3502

 

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